東方 赤蛮奇

散々

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 何もかもが上手くいく日もあれば、何をやっても上手くいかない日というのはあるものだ。今日の私がまさにそれで、やることなすこと悪い目が出る。こんな日はさっさと帰って休んでしまいたいのに、そんな時に限って変な出来事が起こる。
「あ、ろくろ首」
 誰だ!
 人里で目立たないように道を行く私を不穏当に呼び止める奴は。
 そう思って目を転じてみると、変なTシャツを来た女がいた。
「ヘカーティア・ラピスラズリです」
「うわぁ、いきなり自己紹介された……」
 実のところ、私と彼女とは顔見知りである。最近になって幻想郷に愉快なちょっかいをかけている彼女は、なんと地獄の女神様だ。私なんぞとはそもそも格が違うのだが、あまりにも親しみやすい性格のせいで、とても格上とは思えなかった。
「どこに行ってるの?」
 ヘカーティアは言った。
「そんなに急ぎ足で、人気のない道を」
 確かに人気はないが、それでも人里の中であることに間違いはない。
「どこでもいいでしょ」
「あら、大変」
 ヘカーティアがつかつかと歩み寄ってきて、おもむろに私の首をねじり切った。
 いや、切れてはいない。私はろくろ首だ。頭は浮くだけだ。だが、あの行動は間違いなく私の首をねじり切りに来ていた。
「頭の中に何もなくてよ」
 地獄の怪力で地獄めいた私の頭蓋を割り開いて、私の体に見せつけてきた。吹き出した血が彼女のTシャツを汚したが、それを気にするはずもなかった。何しろ彼女は飛び抜けた神だから。
「ああ、これじゃ美容院にも行けやしない」
「病院なら向こうから来てくれる」
「ヘカーティア・ラピスラズリ。貴方は大変な乱暴者ね」
 私はおもむろに別の頭を呼び出して、体の上に乗せた。
 しかし、ヘカーティアはそれも取り上げると、地獄の握力で私の頬を引きちぎって、バターロールのように食べ始めた。
「おいしい?」
「イマイチ」
 なんだって自分の頭を賞味されながら、酷評を受けなければならないのか。この世に神はいないのか。いるけど。大概意地の悪いやつらばかりだ。というか、目の前にいるのが超絶怒涛に格の高い神だ。そうだ。意地悪だ。頭も悪い。軽い。その通りだ。軽きに泣きてなんとやら。私は不幸だ。私はヘカーティアに殴りかかった。ヘカーティアは避けた。ヘカーティアは私を叩いた。ヘカーティアは叩いた。ヘカーティアは叩いた。ヘカーティアは叩いた。ヘカーティアは叩いた。ヘカーティアは叩いた。ヘカーティアは叩いた。ヘカーティアは叩いた。ヘカーティアは叩いた。ヘカーティアは叩いた。ヘカーティアは叩いた。ヘカーティアは叩いた。ヘカーティアは叩いた。ヘカーティアは叩いた。ヘカーティアは叩いた。ヘカーティアは叩いた。
「貴方の頭は銑鉄のよう」
 私は銑鉄だという。それならもう少し大事に扱ったって良さそうなものだ。私の頭が叩きに叩かれてぐずぐずの肉塊になってしまったので、私はまた代わりの頭を体の上に据え付けた。ヘカーティアは叩いた。私は据え付けた。ヘカーティアは叩いた。私は据え付けた。
「きりがない」
「反復は地獄だからね」
「じゃあ、天国は?」
「永遠に何もしなくていいのよ」
 そいつはとても極楽的だ。絶対行きたくない。
 年老いたロバのように、私はヨボヨボと歩き出した。ヘカーティアは横にテコテコついてきた。
 人間の里の道は歩きやすくて、整えられていて、ゆえにこそ不安を掻き立てる。もっとも、柳の運河も同じ性質ではあるのだが、それでもまだ幽霊が出る余地がある。里の中に入ってしまうと、人間が住みやすいように環境を作り変えているから、どうにも気持ち悪さが否めない。すっかり湿った下着を履かされた気分だ。
 濡れそぼっているのは布か股か。そんなもの誰だって観測できやしない。敷布から丘陵に合流した時点で二者は一体だ。分けて考えることに何の理由もなければ妥当性もない。ただ気分の悪さだけが沈殿している。
「ヘカーティア・ラピスラズリ」
「ん?」
「私の頭を許してあげてほしいんだけど」
 ヘカーティアはまた私の頭を取り上げて、今度は私の首の上に返した。もう何かをやる気すら失せたのかもしれない。だが、本当にそうだとしたら、私は次の瞬間に全存在を抹消されているだろうから、少なくとも興味の炎は燃え尽きていないらしい。
 次の瞬間に死ぬとしたら何がしたいって?
 そりゃあ、この神様とやらに一発拳を入れてやりたいね。
 私は影を引きずり、ヘカーティアはその中に入ってついてくる。拭い去れない死の予感とともに、私はどこまでも歩いていく。逃れることなんてできやしない。何しろ相手は至上の女神だ。
 そうだろう、貴方も?

-東方, 赤蛮奇

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