二ッ岩マミゾウ 東方

狸頭

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 世評風聞というものは面白うてな。儂が命蓮寺の連中から阻害されておるという噂が立っておったのよ。いやはや、面白いことを言う。まあ、尼公からは一線を引かれておろうがのう。交誼ということであれば、さほどに嫌われておるわけでもない。
 知っておるか?
 狸と仏とは相性が良いんじゃ。何も口から出まかせではない。正真正銘たる言い分がある。
 座って聞いていかんか。立ちん坊もなんじゃろう。それとも、天狗は狸と輪座するのは嫌いかな。儂は気にせんよ。天狗だろうが天邪鬼だろうが、関係あるものか。要は面白いかどうかよ。千変万化の森羅万象、数多の生命はすべてそこに掛かっておる。その点、最近の外の世界はどうにもつまらん。魅力がない。艶を失った。あれが文明化するというものなのかな。ずいぶんと偏狭な精神世界に閉じこもるもんじゃ。その先にあるのは破滅、法滅……。
 いや、愚痴を話すも御免被るといったところじゃな。
 本題に戻るとしよう。狸と仏の話じゃ。
 知っておるか?
 知っておろうな?
 狸を題材とした説話は、どうにもこうにも寺が絡んでくる。坊さんに諭され、改悛する狸もおる。一緒になって腹を叩いた挙句に、死んでしまう狸もおる。
 これは狸がそもそも神聖な動物ってあったからに他ならん。仏の教えが入ってくる前、狸は崇められる存在であってな。神の化身、いやさ、神そのものという扱いようであった。
 しかしながら、かの教えが伝来して以降は、摩訶不思議な術を使う魔物の類として扱われることとなった。仏様には元から従者と成す動物がおったからのう。これも致し方のないことじゃ。天津神と国津神の話を持ち出すまでもなく、土着の神が舶来の神に敗れると、姿形を変えることになるものでな。
 ゆえに、我らは化け狸となった。
 大人を誑かし、老人を食い物にし、子どもを拐かす、許しがたい存在となっていった。
 そんな妖魔を慈愛の心でもって懲らしめるのも、また御仏の厚い情というわけじゃ。
 ふふ、こんな話をとうとうとよく聞いたものよ。
 違う違う、本当に出るに任せたわけではない。言ったことはすべて本当じゃ。
 だが、気づかんかったか?
 儂は頭っから答えを言っておったよ。何も仏さんや狸族の来歴を話さんでも、初めから答えはそこに用意されていた。
 他より抜きん出た者ならわかっておったろうなあ。狸は「他抜き」とも言って、縁起物でもあるからな。
 とはいえ、よく使われるのは「た抜き」、暗号問題なんかで使われる方じゃな。
 ふむ、狸の頭。た抜きのあたま。
 おやおや?
 儂は初めから尼だったのではないか!
 というわけでな。儂と尼公は初めから同類だったのよ。受け入れる受け入れないの話ではなく、ご同業でな。無論、やり方や考え方は大きく違うが、根っこのところでは同じものよ。
 本当かって?
 ははは、知らぬ知らぬ。誰も知らぬ。誰かの話が嘘か真かなど、突き詰めれば己の方寸一つで考えなければならぬことよ。
 さあさあ、他より抜きん出て、脳汁がなくなるまで絞ってみるがいいとも。
 儂は甘いものでも食べながら悠然としておるよ。そう、これもまたアマじゃ。儂のこの部分の毛色も亜麻色。儂があれこれ指図して使っているのも阿媽……いわゆる大陸の小間使い。そうして、儂らを高みから睥睨しているこの空もまた、天。
 この世は狸とともにある。嘘か真か、真か嘘か。誰も知らぬ。誰も届かぬ。答えは各々の頭の中だけにある。狸の頭がそう言っておったと、せいぜい新聞で書き立てることじゃな。

-二ッ岩マミゾウ, 東方

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