パチュリー・ノーレッジ 東方

触手

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 ついに完成した。
 あとはその威力を試すだけだが、誰を被験体にしたものだろうか?
 もちろん、私自身がそうなることを望まない。これはあまりにも強力で、とてもとても自分の身で受ける気にはならないからだ。
 まあ、こういう時には友情に訴えるのが一番だ。私は早速レミィを呼んできた。
「こ、これは!」
 レミィがそれを見て、見事に引いた。
「そうよ」
 私は逃げられないようにポジショニングを取りながら、レミィへの解説を始める。
「いわゆる触手というやつよ」
 うねんうねんと動く紫色の触手。まさしくこの世における敵と断ずるに余りある姿だった。とても話が通じそうにない。ぬらぬらとしたその姿はいかにもやってやるぜという気概に満ちている。
「なんてこと、あっという間に紅魔館がピンクに染まってしまうじゃない!」
 ふふん、と私は優越を表情に出した。
「安心して。これはいわゆるエッチな触手ではないわ。いわば本格派の触手ね」
「そんな野球のピッチャーみたいな」
 いや、レミィが野球に例えたのはある意味正しい。
 そもそも、触手というものは主に水生生物が持つもので、陸上生物たちにとってはしばしば嫌悪の対象となる。これが本格派の触手だ。ところが、地上に出てきた触手はさらなる進化を遂げ、液体を吹き出したり締め付けたり女の子が好きだったりする。これこそ触手の亜種というべきもので、巷のエロスにおいて欠かせない一品となっている。
 なぜかは知らないが、私はどうもこの触手というワードが似合うそうだ。小悪魔がそう言っていた。「お似合いですぜ」とまで言っていたから間違いない。なんで口調がおかしかったのかはわからないぜ。
 ただ、そんな倫理的に問題のある触手について、私は一片の興味も持たない。大事なのは触手というものが本来持つ暴力性だ。数多の陸上生物の心胆を寒からしめ、死という一点を想起させる圧倒的な力だ。
 よって、私は研究に研究を重ね、ついに陸上においてその力を最大限に発揮する本格派の触手製造に成功した。
「この触手は、いわば百マイルのストレート」
「すげえ、意味がわからねえ」
 レミィはそう言っているが、なあに、私たちは親友である。まるで心を読んだかのように、私の真意を察してくれるはずだ。
「さあ、レミィ。こいつと戦って」
「よし、わかった!」
 即答。さすがレミィである。面白そうとわかったらやってみる。これぞ「幼女よ大志を抱け」の精神だ。クラーク博士もあの世でウルトラアルゼンチンバックブリーカーを仕掛けていることだろう。
「やい、触手。覚悟しろ!」
 グングニルを手に、飛びかかるレミィ!
 触手のカウンター!
「ぐはぁっ!」
 普通にふっとばされるレミィ!
「ふむ」
 私はその見事な迎撃ぶりを見て、充分以上の感触を得ていた。
「実験は成功ね」
「超いてえ!」
「『超』は本来名詞にしかつかないものよ」
「知るか!」
 私はレミィを助け起こした。親友を吹き飛ばした紫色の触手は誇らしげにうねうねと動いている。
「こいつ、強くない?」
「そりゃ、触手ですもの。ヒットポイントがカンストしてても、それ以上のダメージを与えてくるわ」
「言っている意味がわからない」
 ふむ。逆に考えてみると、こいつはどう退治すればいいのだろう。今でこそ私に従っているが、もしも彼が逆心を起こしたならば、あっという間にエロ展開に持ち込まれてしまいそうだ。
「レミィ、こいつどうやったら倒せると思う?」
「日光に弱いとか」
「レミィじゃあるまいし」
「バカにしとんのか」
 気まぐれ無脳タイプのレミィに尋ねるのが間違いであった気はする。
 そうか。この触手の材料から類推すればいいのだ。そして、実際にやってみた。結果的には、日光に弱いし月光にも弱いしそもそも外に出られないしそもそも自分で動けない属性ということが判明した。まあ、触手の根っこには私が設置した魔導書があるのだから、さもありなんという感じではある。
 この事実を、レミィに伝えた。
「なんでそんなもん作ったんだ」
「いやあ」
 私は笑顔で自分の首を親指でかき切る動作を加えた。最近のお気に入りのパフォーマンスである。
「今度異変があったら、巫女だろうが魔法使いだろうがこてんぱんにしてやろうと思って」
「確かに、こいつの一撃は強烈だった。味方にすれば、これほど頼もしい奴もいないわ」
「男塾みたいね」
「紅魔館は乙女塾よ」
「幼女塾の間違いじゃない?」
「黙れおっぱい担当」
 そこへ走ってくる音がする。
「パチュリー様、大変です! 都合良く実験体が現れました!」
 小悪魔だ。
 続いてやってくるのは、まるでレミィが運命操作したんじゃないかと思うほど見慣れた顔。
「よう、来たぜ」
「魔理沙、ちょっとあの触手に逝かされてみない?」
「話の展開が急すぎてわからん」
 私はかくかくしかじかと十秒くらいにまとめて説明した。これがプレゼン大会だったら喝采の嵐だっただろう。この場に私の能力を推し量れる人材がいないことが悔やまれる。
「なるほど。まるまるうまうまだということがわかった」
「というわけで、触手を倒すまで帰れまテン」
「はい、どーん!」
 魔理沙はおもむろにマスタースパークを発射した。
 触手が光線の中に消えて、跡には何も残らない。
「弱い」
「弱っ」
「弱いな」
「弱いですね」
 四人で揃って唱和した。
「弾幕に弱いんじゃ、話にならないぜ」
 魔理沙の指摘はもっともで、私は口元に手を当てて考え込んでしまった。
「むう、盲点だった。接近戦しか想定していなかった」
「お前はアホか!」
 レミィの叫び声が響いた。
 まあまあ、いいじゃないか。偉大なる発明には多大なる失敗が必要なのだ。
「いつか究極の触手と至高の触手で競わせてみたいわね」
「触手の鉄人でも始めるんですか?」
「お、ナイスアイディア」
 私は思わず小悪魔の頭を撫でていた。
 いやはや、サキュバス扱いされるのが関の山だと思っていたが、どうしてどうして結構な働きをするものだ。ひらめきという分野においては専門性が関係ないという証左かもしれない。
「さあ、レミィ、魔理沙。目指しましょう。触手界のトップブリーダーを……!」
「ならねぇよ!」
「育てるのかよ!」
 ダブルでツッコミを受けた私は、あっはっはと笑ってしまった。
 こういうのも悪くない日常である。

-パチュリー・ノーレッジ, 東方

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