射命丸文 東方

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 風見幽香はとろふわおっぱいか、それともシャッキリ乳首ピンピン丸か?
 いや、通常はとろふわおっぱいでありながら、有事にはシャッキリ乳首ピンピン丸であるやもしれぬ。この二つは決して矛盾しない。そうした学説が出てくるのは自然の摂理であった。
 かくて、妖怪の山のおっぱい党大会は荒れに荒れた。相手はかの幽香である。すぐそこに転がっている歴史的真実に、あと少しのところで手が届かない。そのもどかしさもあって、議論は白熱を極めた。
 停滞は新たなる勢力の勃興を促す。事ここに至り、実は感度ウルトラC貧乳ビーム派が登場する。彼女たちは貧乳の二文字を錦の御旗とし、貧乳のくせに乳腺が開発されて母乳まで出るという過激な思想を有していた。
 こうした過激派の登場によって、議論はさらに荒れに荒れる。このままでは、パインアメよりデカイ乳輪党や勃ち上がれ一本などの性癖テロリズムさえ起きかねない情勢だった。
 かかる混迷に終止符を打ったのが、いざという時には古参ヅラしてちょっと煙たがられている射命丸文(本人はこの陰口を聞いた時にちょっと泣きそうになったという)である。
「シトワイヤン。今や状況は議論だけで収まるものではない。我々はいよいよ風見幽香のおっぱいちゅぱちゅぱ作戦を発動すべき時なのではないか?」
 ちょうどナポレオンにハマっていた彼女が、「市民諸君」を意味するシトワイヤンを頭に持ってきたのは仕方のないことである。まだいきなり「皇帝万歳(ヴィヴ・ランペルール)」などと言わなかっただけマシというものだろう。
 ともあれ、賽は投げられた。情勢はついにおっぱいルビコン川を渡ったのである。まさか幽香の乳房を測るのみならず、掴み、揉みしだき、あまつさえ乳首に吸い付こうなどとは、誰も思いはしなかった。さすがは射命丸文、「おまんまん圧迫取材」などというイグ流行語大賞を受賞しただけある――という賞賛の声に満ちていった。
 ゆうかぱい!
 これが彼女たちの合言葉となった。
 必ずやかの大妖怪の乳にたどり着こう。無数の同志の屍を超えて、いかに心のミートバーを刺激するものであるかを世に知らしめよう。
 崇高な理想を持った姉妹たちの戦いが、その日、始まったのである。
「というわけでして」
 文は言った。
「指導部は『乳一号作戦』の発令とともに、大衆の支持も得ていくための活動も開始しました。あの大輪の花を白日の下に晒すためにも、ぜひ応援の声をお願いしたいのです」
「頭おかしいんじゃないの?」
 いつも通り、博麗神社で応接に当たった博麗霊夢の、冷たい一言である。
「いや、こいつは幻想郷にとって大きな課題かもしれないぜ」
 一方こちらはなぜか思案げな霧雨魔理沙。彼女は自分の胸をふにふにといじりつつ、目前に見えている宇宙的偉業についての考えを巡らせているようだった。
「あの幽香だぞ?」
「他に幽香はいないでしょ」
「あいつが身体測定なんかすると思うか?」
「しないでしょうね。どうせでたらめな能力を持ってるんですもの。人間の尺度を適用する方がおかしいわ」
「実に危うい!」
 文は声を上げた。ここを攻め時と見定めたのだ。
「不明というのは妖怪の力ですよ。何もわからないままにしておくと、彼女たちはどこまでも強くなります。それこそ手がつけられないくらいにね。妖怪の力を削ぐという意味でも、身体のことを知るのは非常に重要です。とりわけ、乳房の大きさというのは非常に意味が大きい。四方八方から集まった妖力をコントロールするのが、まさしく方寸です。それを守る胸肉の具合を知ることは」
「わかったわかった。重要なのはわかった」
 霊夢がもうたくさんとばかりに割って入った。
「で、私は何をすれば許してもらえるの」
 どうやら、この状況をひどい責め苦と感じているらしかった。文にしてみれば、非常に心外な話である。ゆうかぱいという未踏峰に今まさに足を踏み入れようというのに、旗頭にもなりうる博麗の巫女がこの体たらくでは、今後の展開が非常に危ういと言わざるを得ない。
 いや、平和とはそういうものなのだ。本来成すべき思考さえも鈍麻させる。ならば、戦いの惨禍を知る者として、真に戦いを避けるために必要な道筋を作るのが役目か。
 文はそのように考え、「霊夢さんには」と前置きした。
「幻想郷中に散らばる同志に向けて、檄文を載せてほしいのです。いいえ、難しいことではありません。彼女の旧友として思ったことを『市民の声』として言っていただくだけで結構。もちろん、一言だけでも充分ですが、多めにいただければ助かります」
「市民の声ねぇ」
 霊夢はいかにも懐疑的という表情で続けた。
「私の代わりに魔理沙じゃダメ?」
「母乳はパワーだぜ!」
「前言を撤回するわ」
「冗談じゃないか……」
 魔理沙は割りと本気めに凹んだようだった。
 まあ、自業自得ではある。
 文はこの金髪の少女に助け舟を出さないことに決めた。ちょうどいい目くらましになってくれたおかげで、自分の目的が達成しやすくなったと感じたためだ。
「お願いします、霊夢さん。幻想郷のためです」
「あんたにさん付けされる時はろくなことがない」
 はぁ、と霊夢はため息をついた。
「でも、やるって言うまで退かないんでしょうね」
「もちろん」
「わかったわかった。適当にぶち上げるから。それでいいんでしょ?」
「ありがとうございます!」
「おっぱい狩りだ!」
 なぜか魔理沙のテンションが上がっていた。風見幽香のおっぱいというのはそれだけ魔性の魅力があるのである。いわば幻想郷の大量破壊兵器だ。速やかに原状を把握するための調査――寺子屋の師匠風に言えば、陰核査察を行わなければならない。
「口述筆記で要点を書き留めるので、お気軽に話してもらって結構ですよ」
 ここはさすがに幻想郷最速の天狗である。速記もお手の物だった。元より霊夢に文への気遣いがあるはずもなさそうなものだが、そこはそれ、取材対象への礼節は欠かさない。それが射命丸文の矜持でもある。
「幽香のおっぱいは……」
 霊夢が喋り始めてすぐに止まった。両手で自分の頬をぺちぺちと叩く。
「何もあんたらに付き合って、おっぱいの話をしなくてもいいのよね」
「おっぱい! おっぱい!」
「おだまり」
 いよいよハイテンションになった魔理沙に、霊夢がチョップを当てた。
 てへへ、と舌を出して照れる魔理沙。こんなにあざとくさせるのも、ゆうかぱいの魔力である。文はこのエピソードも記事の中に書き入れようと決めた。かの大妖怪のおっぱいは、ここまでの中毒性を発揮するのだ。
「ええと、風見幽香というのはとても危険な妖怪です」
 文はさらさらとメモ帳に書き付けていく。
「凶暴です。残虐です。ワレモノ注意です」
 合間合間にコメントをつけていく。ちなみに、このくだりに関しては、「イエネコのような風見幽香」と書いた。さらにすぐ後ろに「=ゆうかにゃん?」という提案も付記する。
「面白半分で近づいたら怪我します。ていうか、死にます」
 つまり、博麗霊夢と同じ。
 文はそのようにも書き残した。
「こんな奴のおっぱいなんて追っている場合ではありません。もっと有意義なことに時間を使いましょう」
 私のおっぱいも良いものがありますよ、と――。
 かくて、記事は「博麗霊夢が語る、独占インタビュー」として「文々。新聞」を飾ることになった。それは山でも人里でもかなりの評判で、記録的な売上に貢献した。文はほくほく顔である。やはり自分の記事が受け入れられるのは嬉しいものなのだ。もしも孫娘がいたなら見せていたであろう、緩みきった表情でぴょんぴょん飛び跳ねてもみたりした。彼女とて乙女なのである。
 一方。「こんなこと話してないわぁ!」と霊夢が激怒していたそうなので、文は怒りが喉元を過ぎるまで博麗神社に近づくのをやめたという。霊夢も少なくとも良い形のおっぱいだと思うんだけどなあ、とは文の隠さざる本心である。
 そうして、今日も市民の声は報道によって届けられ、大なり小なりの出来事に影響を及ぼしていく。しかし、そうした声はちゃんとした情報源があるにもかかわらず、不思議と創作性を指摘されるのである。これもまた「声」という名の妖怪が独り歩きしているのかもしれない。

-射命丸文, 東方

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