東方 魂魄妖夢

贈り物

投稿日:

 魂魄妖夢のおっぱい揉みたい!
 それを最初に提唱したのは誰だっただろうか。おそらくは人里の善良な一住民だったと思われる。何かにつけて幻想郷にやってくる彼女に、密かな人気が急上昇。ついに彼女との「出会い記念日」と称して、ある物品を贈ってきたのである。ちなみに、白玉楼までの運搬を担当したのはそういうゴシップが大好きな天狗、射命丸文だ。
「な、な、な、なんじゃこりゃあー!」
 その贈り物を見た妖夢はぶったまげた。人里の本居小鈴級の仰け反りから、配達人となった文を三度見した。
「ほうほう、何が入っていました?」
 しゃらくさい反応である。文はすでに中身を知っている。その上で、すっとぼけている。それを証拠に、カメラでしっかり妖夢の表情を撮影しているではないか。
「下着!」
「そうですねえ」
 妖夢が贈り物の紙袋から取り出したのは、黒い下着だった。
「しかも、ヤバイやつ!」
 艶やかな逸品である。まるで誰かを誘惑するためだけに作られているかのようだ。
「うわー、股のところ開いてる!」
 思わぬギミックに、妖夢は顔を赤くしてうわーうわーと言い続けている。
 なぜいわゆる女性器の部分にスキマがあるのか?
 それは夢と希望を注入するためにあるのだ、と文は考えていた。意匠的に言えば、オープンクロッチという大した呼び方があるが、そこからドリームが入ったり放たれたりすると考えた方がよほど幻想的である。
「というわけで、さあ、妖夢さん」
「さあって」
 妖夢は耳まで赤くなっている。半人半霊の半人部分は紅潮するためにあるかのようだ。よくよく見てみれば、半霊も頬を染めているように見える。つまりは魂魄妖夢の全部が恥じらいを抱いているということになる。
 この事実に、文の心は勃起した。
「着ましょうね。撮りましょうね」
「着るだけならともかく、撮る!」
「え、そりゃあ撮りますよ……」
「まるで私が非常識人のような反応!」
 妖夢はすっかり引いてしまって、文から露骨に距離を取り始めた。
「考えてみてください。めでたい節句の日には晴れ着を着るでしょう?」
「そりゃあ……」
「だから、はい。上も下もちゃんとつけて、くぱぁポーズでピースを」
「何がめでたいんだ!」
 妖夢が楼観剣を抜き放ち、問答無用で文に斬撃を放つ。
 しかし、この程度が読めない文ではない。確かに、妖夢の本気の斬撃は文の速度にすら追いついてくるが、精神的動揺がある未熟者モードの彼女では、この幻想郷でうざったいくらいに素早い天狗を捉えることなどできないのだ。
 すかさず回避、さらに攻勢転換。
 前に踏み出した文は妖夢の横へと回り込み、そっと耳打ちする。
「『時間無制限一本勝負』って、冷静に聞くといやらしく聞こえません?」
「だーっ!」
 内容はしょうもないが、今のおピンク回路が発動した妖夢にとっては、完全に下ネタに聞こえたらしい。手を振り足を振り、文をとっ捕まえようと四苦八苦だ。もっとも、そうして焦れば焦るほど、この疾風の天狗からは遠ざかる。
「その程度では妖精一匹さえ落とせませんね」
「くぅ……」
 おっと、冷静になられても困ります。
 文はここに来てようやく「本気」になった。
 猛烈な勢いで妖夢の側を駆け抜ける。妖夢が振り返るころには、もう文の体勢は整っていて、追撃が不可能な状況だ。
「ところで」
 文は後ろ手を組んで、悠然と言った。
「胸のあたりがすっきりしてませんか?」
 妖夢がハッと気づいた時にはもう遅い。文は妖夢からスリを行った脱ぎたてほやほや(脱がせたてでもある)のブラジャーを持ち上げ、戦果をこれでもかと誇示してやった。
「なんて技」
「いずれにせよ、貴方はその贈り物を身につけるより他にない。思わぬ着心地に身悶えるがいいわ!」
「この悪党!」
「これは心外。私は貴方に贈り物を届けにきて、なおかつ取材をしようとしているだけのジャーナリストだというのに」
「私に破廉恥をする暇があるなら、もっと取り上げる話題があるでしょう?」
「読者はみんな性欲を持て余しているのよ」
 文は妖夢の着ていたブラジャーを投げ捨てた。
「とりわけ妖夢……貴方の乳を揉みほぐして寝たい、膝枕してもらいながらニャンニャンしたいと評判なのよね」
「娘々死体……?」
 文は言葉のミスチョイスを認めざるを得なかった。青娥娘々と宮古芳香の存在はこういう時に非常に紛らわしい。
「でも」
 あえて臨戦態勢を解き、間を置く。
「妖夢、貴方が大人になることを求めているのは私たちだけじゃあない」
「どういうことですか」
 怪訝な表情を崩さず、妖夢はなお楼観剣を文に向けて構えたままだ。文の行動が特異であるからこそ、逆に警戒心を強くしているようですらある。
「じゃあ、特別ゲストを呼んじゃいますね」
 文が二度手を叩いた。
 すると、襖ががらりと開く。
 文と妖夢のちょうど中間距離に、決然とした表情の西行寺幽々子が現れる。さらにはどこからともなく音楽まで流れ始めた。
「げぇっ、幽々子様! やばい。BGMがすでにボーダーオブライフだ! そんなに私を脱がしたいんですか!」
「正確には脱がして、着せたい」
 幽々子は言った。すでに彼女は巨大な扇を背負っているようにすら見えた。ラストスペルは発動している。不退転の決意とはこのことのように思えた。
「妖夢、貴方もそろそろ大人への次の歩みを踏み出す時よ」
「あーもう、反魂蝶の無駄遣い!」
 戦力の絶対的な不均衡。
 危うし、魂魄妖夢!
 果たして、彼女の打開する道はあるのか?
 それは……。
 無かった。
 普通に脱がされて、着せられた。
 ついに観念した妖夢を飾り立てる間中、文と幽々子は近年まれに見る笑顔を浮かべていた。
 そして、撮影。これはちょっとした秘蔵物である。あるいは戦争の火種にもなるかもしれない。
「すべての因果は繋がっているのだ。そう、魂魄妖夢が大人になったということもまた、未来の異変に繋がっているのかもしれない……」
「良い感じに終わらせようとするなーっ!」
 涙目の妖夢が指を突きつけてくるのを無視して、文はルポを書き上げた。妖夢の激ヤバエロチック写真は、彼女のおしゃれ小箱という名の金庫にしまっておく予定である。幽々子はまだ妖夢をかわいいかわいいと撫でたり擦ったりしていた。
 妖夢が元々着ていた下着を拾って懐に収めながら、文は悠久の歴史に思いを馳せていた。
「持っていくなぁ!」
 もちろん、その叫びは完全に無視されたことを付記しておかねばなるまい。

-東方, 魂魄妖夢

執筆者:

関連記事

狂雲・天

 私は完全に正常である。  これは天界のみならず、すべての世界に一致した基本的見解であり、どのような奸策、密謀、佞言によっても突き動かされるのことのない絶対的な真理である。疑うのならば、今すぐに是非曲 …

死は夢幻の彼方

 牛車に揺られて、からからら。  とろりとろとろ眠くなってはきたものの、さて、眠ったものかどうかを考える。  さしたる話ではない。ただ眠るかどうかというだけの話。  しかし、寝てしまったら寝てしまった …

発火点

 風見幽香の居宅を博麗霊夢が尋ねてきた。博麗の巫女の表情は険しい。人間に仇なす妖怪に対する姿勢が、形をとって現れたようだった。 「あんた、何したの?」  家に迎え入れた幽香に、霊夢はそう言葉を投げかけ …

立て札に水

 私が水をやっていると、にとりの奴がやってきた。 「やあ、えんがちょ」 「えんがちょ言うな」  こういう物言いが許せるのは、それなりの付き合いがあるからである。縁もゆかりもない奴に言われたら、思い切り …

うつくしいひと

 メディスン・メランコリーは奇妙なものを見た。彼女が生活の場としている丘に、人間の女がやってきたのだ。メディスンも生まれて程ないとはいえ、一端の妖怪である。単に妖怪の目で見ればひよっこというだけで、人 …

PREV
寂雨
NEXT
晒し首

2017/07/26

うつくしいひと

2017/07/25

覇者の時代

2017/07/24

消えゆくもの

2017/07/23

暴君

2017/07/17

発火点

 2017年博麗神社例大祭では2種類の新刊が出ます。
 どうぞよろしくお願い致します。